痩せたくて、そして健康な身体を取り戻したくてダイエットを始める人は多い。世に溢れる様々なダイエット法がそのことを物語っています。
その結果、満足のいく成果を得ることができるのは、意志の強いわずかな人たちだけ。
そんな現実を知ってか知らずか、登山が極めて高度な有酸素運動であることに目をつけて、登山でダイエットに励もうという人がいます。
登山家である私としては登山人口が増えることには大歓迎ですし、登山ならば確実に痩せることができるでしょう。
しかし・・・登山をダイエット法と捉えてしまうとあまりにも危険なのです。
今回は、登山をダイエットの手段とするそんなあなたに警鐘を鳴らすため、この記事を書きます。
目次
登山は超効率的カロリー消費方法だが・・
ジョギングと同じように、登山は有酸素運動の代表格であり、効率的にカロリー消費させる手段としては非常に理想的です。もちろん、痩せます。有酸素運動のカロリー消費効果を得るには比較的長い時間の運動が必要ですが、登山は3時間から6時間くらいは当たり前のように歩く運動です。その点でも非常に理想的と言えます。
街中を走るジョギングでも、現役のマラソン選手でもない限り、2時間以上走り続ける人はいないと思います。ただし、ジョギングと登山は、同じ有酸素運動でもあまりにも違いすぎるのです。問題はその違いにあります。
非常に危険な登山のカロリー消費

同じ有酸素運動であるジョギングと登山の違い。それはジョギングが「単なる有酸素運動」であるのに対し登山が「重量を背負った状態で行なう有酸素運動」であるということです。
これが一体どういうことなのか?先ずは、消費カロリーの計算について説明しましょう。
自分の体重×移動距離=消費カロリー
これが消費カロリーを導き出す計算式です。この計算式はあくまでも基本であって、実際は様々な要素が絡んでくるので当てはまらない場合もありますが、仮にこの計算式を当てはめてみると、体重60kgの男性が1km歩くと60キロカロリー消費することになります。
では、これを基準に登山の負荷について考えてみましょう。
運動強度から消費カロリーを導き出す
あなたは運動強度という言葉をご存知ですか?一般的にはMETs(メッツ)と呼ばれ、正式名称は「Metabolic Equivalents」です。
このMETsは身体活動の強さを表す単位であり、身体活動のエネルギー消費量が、安静時のエネルギー消費量の何倍に相当するのかを数値にしたものです。
例えば、安静に座っている状態が1METsに相当し、普通歩行が3METsに相当します。
このMETsの数値を以下の計算式に当てはめれば、より正確な消費カロリーを導き出すことができるというわけです。
消費カロリー(kcal) = 運動時間(時間) x METs x 体重(kg) x 1.05
アクティビティ | METS |
---|---|
徒歩 | 3.5 |
ハイキング | 7.8 |
10kgの荷物を持って山を登る | 8.3 |
水泳 | 9.8 |
マラソン | 13.3 |
雪山登山 | 15.5 |
登山は7〜9METsと言われていて、ジョギング・スイミングと同程度です。厚生労働省のまとめている運動強度一覧表では一般登山で8.3METsとされています。
例えば、体重60kgの男性が8.10kgのザックを背負って6時間かけて山に登るとしましょう。登山のMETsは8.3であり、これを先ほどの計算式に当てはめると3660kcal程度の消費カロリーになります。すでにかなりの消費カロリーですが、これに基礎代謝を含めると男性なら余裕で5000キロカロリーを越えます。
5000キロカロリーというと、マクドナルドのビッグマックがなんと約10個分!!とんでもない消費カロリーです。

ここでもしあなたが「消費カロリーが大きい→痩せる」という単純な図式を頭に思い浮かべたのであれば、ちょっと待ってください。
これを実際に行うことができれば確かにカロリー消費の効果は抜群です。しかし、登山経験のない人が行なうことはほぼ不可能です。そもそも10kgを背負って坂道を延々と歩く下地が出来ていません。まともに歩けて30分程度ではないでしょうか。
でもあなたはものすごい根性の持ち主で、なんとか6時間山道を歩き通した!ということにして話を進めます。
登山は危険、が大前提

先ずはこの数値を見ていただきましょう。

お分かりでしょうか?山での遭難者が3111人に対して死者・行方不明者が354人!
遭難者10人中1人以上が死亡しているという異常事態です。
当然、難易度の高い山に登攀中のベテラン登山家がなんらか理由により滑落、死に至ったというケースもあるでしょうが、なんとハイヒールでも登頂できると言われる高尾山でも2016年には90件を超える遭難事故がおきています。
山岳遭難の原因の多くは、登山をキャンプ場でのキャンプと同様に考えて、あまりにも不適切な行動を取ったことによるものです。
先ほどの高尾山の例で言うと、高尾山でビールを飲んだ後に山道で滑落するという通常では考えられない事例が、高尾山での遭難の典型例なのです!
高尾山の例に限らず、登山がちょっとしたブームと言われる昨今、山を理解せずに軽装備と普段着で登頂しようとする人があまりにも多い!この傾向が続く限り山岳遭難者は増加の一途をたどることになるでしょう。悲しいことですが。
改めるべき痩せるための登山という発想

登山すれば当然体重は減る。当たり前です。ものすごいカロリーを消費しているわけですから。ただし、ここで安易に「やったー!体重が減ったー!」と喜ばないでいただきたいのです。
ってな感じで、冷静に自分の身体の状況をチェックしていただきたいと思います。なぜなら登山の結果、体重が2kg減ったというのは決して喜ぶべきことではないからです。
まずあなたの身体は、常に糖分による栄養補給を行なっている!これを大前提として捉えてください。
登山は高負荷有酸素運動であるため、あからじめあなたの身体に貯蔵されている糖分であるグリコーゲンは、すぐに底を尽きます。その結果、身体は脂肪を燃やし始めるのです。カロリー消費でダイエットを目指す人の狙いはここですよね!
身体にたっぷりと脂肪を蓄えている人の場合、その狙いも良いかもしれません。しかし、実は脂肪を燃やすこと自体が危険だということを覚えておいてください!
グリコーゲンは使い切るべきでない

糖質であるグリコーゲンは、自動車でいえばガソリンのようなもの。一気に燃焼してエネルギーに転換することができます。ただし、貯蓄庫である肝臓のグリコーゲンは、約400キロカロリー程度しかないためすぐに使い切ります。グリコーゲンを使い切ると脂肪が燃え始めます。
ただ、グリコーゲンが貯蔵されているのは肝臓だけではありません。筋肉にも1200〜1300キロカロリーほどのグリコーゲンがあり、これを消費すると途端に身体が重くなりはじめます。
脂肪は燃料として不適格
グリコーゲンが無いため仕方なく燃料として使用する脂肪。実はグリコーゲンほど一気にエネルギー転換することはできません。燃料としては不適格と言わざるを得ないでしょう。そのため、登山中のあなたの脚はエネルギー不足のため重くなリ、すぐに疲れてしまいます。
そもそも登山は、荷物を背負い坂道を登るという高負荷運動であるため、エネルギー効率の悪い脂肪を使用するのに向いている運動ではありません。脂肪燃焼のエネルギーで行動ができるのは十分な筋肉量があり、効率よく歩ける経験者です。
また、糖分は脳のエネルギー源としても極めて重要な栄養素です。その糖分すら燃料として使い切ってしまうため、頭はぼーっとして集中力がなくなり、筋肉疲労で足がガクガクと震えて踏ん張りが効かなくなります。
登山業界ではこの現象をシャリバテと呼んでいます。
その結果、重量のある荷物に引っ張られる形で滑落、もしくは足を挫いて動けなくなるという典型的な遭難事例が発生してしまうのです。
ベテラン登山家はそんなシャリバテの恐ろしさをよく知っているので、それを回避するために多く即効性のある糖分を大量に摂取します。その代表格がおむすびですね。

ベテラン登山家になればなるほど自分の身体をよく知るようになり、シャリバテを防ぐにはどのタイミングで糖分を摂取すれば良いかがわかってきます。
ただ、大量に糖分を摂取するのではなく、より計画的に効率よく糖分を摂取する!これが登山家に求められる必要最低限の資質です。
登山では脂肪を温存すべき

私たちは登山を行なう場合、ありとあらゆるトラブルを想定し、頭でシュミレーションを行います。その上で備えるべきはキッチリ備えて登山に挑みます。
そんな準備段階で最も気を使って準備するのは、食料です。ここまで読み進めてくれたあなたならばもうお分かりだと思いますが、登山で脂肪の燃焼を前提にすることはありえません。出来る限り食事と携行食のみで行動に必要なカロリーを捻出します。脂肪をエネルギーにするのは、いざという時の最終手段です。
カロリーを気にしている人もそうでない人も、登山ではとにかくしっかりと食べること。この時ばかりは食事制限などという言葉は忘れてください!
食べる元気があるならひたすら食べ、背負える荷物に余裕があるなら水と食料を入れるのは基本です。登山はいかに体重を落とさないかが大事です。自分の体力と行動日数に合わせた食料を適切を選ぶには経験が必要です。1泊登山でも2食分程度は余分に持っていくべきです。
消費される脂肪、そして筋肉

さて、ここまで「カロリー消費を目的とした登山」の危険性をお話してきましたが、もうひとつ重要なことをお話しなくてはなりません。通常のダイエットなどでも推奨される有酸素運動、いいことずくめのように思われるかもしれませんが、実は、過度な有酸素運動は、脂肪だけでなく筋肉も消費してしまうのです。これをカタボリックと言います。
燃料として使用される順番はグリコーゲン>脂肪>筋肉であり、筋肉は最後まで温存されることにはなります。しかし実際は、脂肪と筋肉は同時に消費されると考えた方が良いでしょう。ちなみに、ボディビルダーは基本的に有酸素運動はしませんし、マラソン選手はスリム体型の人がほとんどです。
カロリー消費を目的とした登山が間違いである理由がここにもあるのです。
ダイエット目的で登山した場合、確かに体重は落ちます。ダイエット目的であるため、当然食事制限を実施したままの登山です。そうなると、燃料である肝臓のグリコーゲンはすぐに底を尽き、脂肪の消費段階に入るので体重が減るというわけですね。
ところがこの時、筋肉も消費されてしまっているのです。筋肉が消費されるとエネルギーの消費効率が下がるため体脂肪率が増えてしまう。
筋肉量はタンパク質と糖質を取らないと絶対に増えません。いくら高い負荷のウェイトトレーニングをしても、食事制限をしていては意味がありません。
仮にあなたが筋肉量を減らしたいと考えるならば、食事制限を実施しながら登山のような有酸素運動を行なって、それ以外の筋トレは一切やめる。これであなたの身体の筋肉量は激減します。絶対にオススメできませんが。
筋肉量が減ると脂肪が消費されにくくなり、結果としてあなたのお腹まわりなどに脂肪が蓄積されてしまいます。食事制限を行なった状態の登山でカロリー消費に成功したけれど、身体は筋肉がなく脂肪だらけという隠れ肥満の誕生です。
過食でも体重が確実に落ちる登山

もしあなたがカロリー消費目的で登山をするのであれば、食事制限などは一切行わず好きなだけ食べて登山に挑んでください。心配ありません。それでも体重は確実に落ちますから。
1日8時間を超える山行や2泊縦走をすると、食べられる限界まで食べても結果として栄養素が足りなくなり体重が落ちます。体内の水分・脂肪・筋肉を大量に消費した結果です。登山はあまりにもカロリーを使いすぎるのです。
脂肪だけ燃えてくれるのならば万々歳なのですが、筋肉が過度に消耗しているため大量に栄養補給して回復することは必須です。
あまりにも危険な登山ダイエット

あなたの身体の栄養素が枯渇すると何が起こるか?
- 身体が動かなくなる
- 糖がなくなり脳が働かなくなり遭難する(事故をおこす)
- 筋肉を著しく消費する
山岳事故で最も多い原因は、疲労と集中力の低下からの遭難です。元気な状態ではまず事故は起こしません。エネルギーを使い切ると道標は見えて確認したつもりでも1分後には全て忘れています。
登山ではそれだけ身体を限界まで追い込まれるため、登山届があり、岐阜県の北アルプスでは未提出者は罰金を支払うほどの条例ができました。
登山届けについてはこちら
↓
遭難を事前に予防!登山計画書の書き方とは
そもそも登山を楽しんでいる人は、登山でカロリーを消費しようなんて危険な発想をしません。むしろ「膝に負担がかかるから減量して次の山行に備えよう」という考え方をします。
北アルプス縦走レベルの山行経験がある人ならば経験として栄養枯渇と疲労がいかに危険かがよく分かると思います。逆に「たかが有酸素運動。ダイエットで大げさすぎる」のように登山と有酸素運動の区別がつかない知識の人ほど遭難するとパニックを起こし事態を悪化させます。
登山では、4〜6時間かけて山頂を目指すことなど当たり前。そこから4〜6時間かけて下山することも想定して計画を立てるのです。仮に山頂付近で怪我をしてしまっても、どうにかして下山しなくてはならないのです。山頂付近で救急車を呼ぶわけにはいかないのです。その点、故障したら競技を中止できる一般のスポーツとは大きく異なります。
工夫次第で効率の良い登山ダイエット
もしあなたが「登山前、登山中、下山後は全力で食べて結果として体重を落ちればラッキー」と考えるならば登山をオススメできます。ぜひ山を満喫して楽しんでください。
私の場合、3泊縦走で大体3kg程度体重が落ちます。殆どが水分なので下山後5日間で体重が元に戻ります。私はダイエットをしないのであまり体重を気にすることはありませんが、登山で体重を落としてから普段の過ごし方に注意すれば、結果として効率の良いダイエットにできる可能性はあります。
例えば、週1回の登山よりも毎日の晩御飯の白米をカットした方が明らかに早く体重が落ちます。リバンドさせない自己管理ができるならば、登山は効率のいいダイエット方法です。
どんなに危険な道具も手法も、要は使い方次第であり、使う人次第です。登山というものをより深く理解し、あなたの人生に役立ててください!
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